中国人が見た、日本人のコーヒー好き。私が教わった最高の嗜好品

中国人が見た、日本人のコーヒー好き。私が教わった最高の嗜好品

2023年02月20日(月)18時00分
周 来友(しゅう・らいゆう)(経営者、ジャーナリスト)

 

『珈琲交響楽』味の素AGF

YUSUKE MORITA-NEWSWEEK JAPAN

<缶コーヒーにコンビニコーヒー、そして何より、昔ながらの喫茶店。私にとってコーヒーは日本文化です>

写真に映る書籍は、およそ30年前に東京の古本屋で手に入れた『珈琲交響楽』。味の素AGF発行の全5冊の大型本で、本場ヨーロッパの「キャフェ」から美しいコーヒーカップまで、ありとあらゆるコーヒー文化が紹介されている。

コーヒー好きの私は今も時折、手に取ってはページをめくっている。

自宅ではコーヒー豆を自分で挽き、お気に入りのカップに入れて飲む。甘党なので、砂糖とミルクを入れて。

ビンテージというほどではないけれど、ウエッジウッドやロイヤルコペンハーゲンなど、『珈琲交響楽』に載るようなカップも20客ほど持っている。

ただ、私にとってコーヒーは、ヨーロッパやアメリカではなく日本の文化だ。

北京での大学生時代、日本人の友人が長城飯店(シェラトンホテル)の喫茶店に連れて行ってくれ、そこで初めてコーヒーを飲んだ。味の良し悪しは分からなかったが、一生忘れられない経験になった。

そして大阪から短期留学に来た男性が、お土産としてくれたのがインスタントコーヒー。その1瓶のネスカフェを半年かけて飲んだ。

私にとってコーヒーは贅沢の象徴、日本が教えてくれた最高の嗜好品だった。

その後、東京に来て、日本人は本当にコーヒー好きなのだと分かった。今となっては少数派だろうが、当時ランチタイムには、多くの会社員が定食屋やレストランで昼食を取った後、喫茶店に寄ってコーヒーを飲んでから職場に戻っていた。

知り合いの社長に、「これは大人のたしなみだよ」と新宿にある「凡」という喫茶店に連れて行ってもらい、高価なカップで提供される「凡のフルコース」をおごってもらったこともある。5種類のコーヒーを楽しめるコースで、なんと約2万円だった(この素晴らしい喫茶店は今もあるので読者の皆さんもぜひ)。

大手メーカーのインスタントコーヒーから、店主が1杯1杯丁寧に淹(い)れる喫茶店まで、私にコーヒーを教えてくれたのは日本人だった。

考えてみると1969年に缶コーヒーを開発したのも日本人だったし、安くておいしい日本のコンビニコーヒーには外国人も驚いている。日本のコーヒー文化はかくも多様で、奥深いのだ。

そんな文化をこよなく愛する私は、スターバックスにもドトールにも行く。インスタントコーヒーも、コンビニコーヒーも飲む。ただ、一番好きなのは昔ながらの喫茶店だ。

産地や焙煎方法にこだわる「サードウェーブ」コーヒーの代表格、米ブルーボトルコーヒーの創業者も日本の喫茶店から大きな影響を受けたと聞く。まさに日本のコーヒー文化の粋と言える場所だろう。

 
広告

毎日足を運ぶ近所の喫茶店では、行くたびに異なるブランドのコーヒーを淹れてくれる。落ち着いた雰囲気、ゆったりと流れる時間、店内に漂うコーヒーの香り。美しいカップに入って出てくるのもいい。

だがこうした昔ながらの喫茶店は時代の流れとともにどんどん姿を消している。寂しい限りだ。日本では文化としてのコーヒーが衰退しつつあるのかもしれない。

一方、中国ではいまコーヒー産業が急成長中。上海は世界一カフェの多い街とされ、私が育った時代とは隔世の感がある。カフェで売られる商品には、日本の抹茶ラテのような、龍井茶や桂花茶を使ったラテもある。

外国の文化を採り入れて独自のものを生み出すのは日本のお家芸だが、どうやら中国も負けてはいないようだ。そんな母国の変化をたくましく思うと同時に、複雑な気持ちもある。古き良きコーヒー文化が失われつつある日本とは対照的だから。

この芳醇な文化を残していくには、どうしたらいいだろう──カップを片手に頭を悩ませる。

皆さんもたまには、贅沢な一杯をいかがですか。

Zhou_Profile.jpg周 来友
ZHOU LAIYOU
1963年中国浙江省生まれ。87年に来日し、日本で大学院修了。通訳・翻訳の派遣会社を経営する傍ら、ジャーナリスト、タレント、YouTuber(番組名「周来友の人生相談バカ一代」)としても活動。

Content retrieved from: https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2023/02/post-145.php.

コメント

タイトルとURLをコピーしました