キーコーヒーの柴田裕社長
コーヒーの生産地が気候変動の影響で二十数年後には半減する――。そんな「コーヒーの2050年問題」は世界的な関心事だ。有数の消費国、日本の業界大手社長としても見過ごせない。自ら音頭を取り、持続可能な生産に取り組む専門部署を今春設立。自社農園で肌身に感じた地球の異変に対峙する。
4月に開設したのは「コーヒーの未来部」。気象の変化や病気に強い品種の発見・開発、産地の栽培支援、消費者への広報など5つの活動の柱を定め、会社横断で約10人を配属し、自ら部門長に就いた。「発案も命名も私。地球規模の課題解決には社内各部門の連携に加え、産地の産官学を巻き込む必要がある。交渉、決断と、トップの深い関与が欠かせません」
コーヒー生産の約6割を占めるアラビカ種は北緯25度~南緯25度の「コーヒーベルト」で栽培される。米研究機関ワールド・コーヒー・リサーチ(WCR)は気温上昇や降雨量の変化により50年までに栽培適地が半減すると警告。生産者の生活への影響も懸念されている。
キーコーヒーは日本の業界では珍しく海外に自社農園を持つ。インドネシア・トラジャ地方のパダマラン農園(530ヘクタール)だ。周辺農家からも豆を調達し、1978年からトアルコ・トラジャコーヒーを販売する。
大学時代に現地を訪れ、精力的な生産者の姿と格別なコーヒーの味に接し、祖父の興した会社に身を投じると決めた。社長就任後、毎年のように足を運ぶなか「2010年代初め、開花期の雨が長びいていることに気づいた」。収量の不安定化に危機感を抱いた直後、WCRの警告に接して腹に落ちた。日本の同業にいち早く2050年問題を触れ回り、周知に一役買った。
毎月、オンラインでメンバー全員と活発に議論し指示を送る。出張先からも欠かさず出席。「現場報告を聞くのが楽しみ」。まずはデジタル技術による遠隔栽培指導などの可能性を探る調査で国際協力機構(JICA)との連携を決めた。耐病性品種の研究も加速し、蓄積した知見は国内外の業者と共有する考え。各国の珍しい品種の豆を発売し消費者の啓発も図る。
「きまじめな行動派」とは業界関係者の評。息の長い地道な取り組みになるが「農園を持つ当社ならではのアプローチで、生産者と一緒に課題解決に臨みたい」と話す。(名出晃)
しばた・ゆたか 1964年神奈川県生まれ。87年慶大卒、祖父の文次が創業した木村コーヒー店(現キーコーヒー)に入社。慶大大学院でMBA(経営学修士)取得。2002年に4代目社長に就任。飲食業の買収など業容拡大を進めている。
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