東京大学でサーキュラーエコノミー研究に励む学生座談会 次代を担う若者の問題意識とは

資源を持続可能な形で最大限活用しながら経済成長も同時に目指すサーキュラーエコノミー(Circular Economy=CE、循環経済)の推進は、資源枯渇や温暖化など地球規模の課題への対応という観点からも世界の潮流だ。その一方で、専門人材の不足が企業におけるCEへの取り組みの阻害要因になっていると指摘する民間調査もある。最終回は、製品のライフサイクル工学を専門とする東京大学大学院梅田靖教授の指導のもと、CEにまつわる研究に励む東大工学部の学生たちによる座談会を通じて、次代を担う若者の問題意識や人材育成などについて考える。

東大大学院の梅田教授(左端)と「サステナビリティ設計学研究室」の学生たち

持続可能な社会に向けて工学と社会を結ぶ

――梅田教授が学生を指導する「サステナビリティ設計学研究室」にはどのような特色があるのでしょうか。

梅田 サステナビリティー(持続可能性)設計学という講座名になりますが、持続可能な社会に向けて工学技術と社会を結ぶ、社会をデザインしていくのが研究室のテーマです。具体的には、「ライフサイクル設計」と呼びますが、製品の調達・製造から輸送、使用、廃棄に至るまでのライフサイクル全体で環境負荷を低減させることを研究しています。私と木下(きした)裕介准教授が中心となって、工学部の4年生と修士課程、博士課程の学生、研究生など計約20人を指導しています。日本では、家電リサイクル法が制定された1998年ごろから、循環型社会への関心が高まりました。当時もレンズ付きフィルムや複写機などでリサイクルに適した設計が行われていましたが、近年は、経済成長の観点でもCEが注目され、ライフサイクル設計の重要性が増しています。CEに着目する大学の研究室はまだ少なく、経済界も我々の研究室の学生たちが取り組む研究に高い関心を寄せていると感じています。

エコシステム、修理のしやすさ、家電レンタル、消費者の行動変容…多様な分野で研究

――今回の座談会には、修士2年の佐藤那義さん、修士1年の新家(しんけ)遥さん、沢田雄生さん、工学部4年の清水優里恵さんの4人に集まっていただきました。それぞれの研究内容を教えてください。

佐藤 温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出削減を図るとともに、メーカーは利益をきちんと確保し、関連する全てのステークホルダーにもメリットがある--。ビジネスとして継続できるエコシステムを作ることを研究しています。二酸化炭素の削減効果は、一企業の取り組みでは限定的で、複数の企業や消費者が一緒に取り組むエコシステムの確立が不可欠です。

具体的には、東大とサステナビリティーの実現に力を入れる三菱電機(本社・東京)で2023年に設立した共同研究体「三菱電機-東京大学・未来デザイン会議」のもと、これまでの「モノを売る」ビジネスからサブスクリプション型への移行や、修理会社などとの連携を通じて製品をより長くユーザーに使ってもらうことで、二酸化炭素の排出量を下げるビジネスモデルの創出などを研究しています。ファクトリーオートメーションに関わる「B to B」ビジネスが対象です。

新家 環境負荷を下げるには、製品の寿命を延ばすことも有効な手段です。その一つのアプローチとして、修理のしやすさを考える研究をしています。「修理可能性」を意識した製品設計の取り組みは欧州などで既に始まっていますが、修理がしやすくても、壊れやすくては困ります。修理のしやすさと信頼性という二つの観点に着目して、製品をより良く、サステナブルなものにしていきたいと考えています。

沢田 私は、家電レンタルにおける二酸化炭素の排出削減効果と企業利益の確保、環境性と経済性を両立させる方法論を、レンタルやサブスクリプションを手がける「クラス」(本社・東京)と共同で研究しています。環境省のプロジェクトの一環です。家電メーカーや量販店などと連携したビジネスモデルのアイデアを考えたり、消費者にレンタルを活用してもらうにはどのような視点が必要かを検討したりもしています。

清水 私は、どうしたら消費者の行動がよりサステナブルなものに変容するかを考える国際研究に参加しており、その中でも、モビリティー分野におけるシェアリングの環境貢献を研究しています。具体的には、東京や名古屋、九州などで自転車のシェアリングサービスを展開している「チャリチャリ」(本社・福岡市)と共同で、提供する自転車の台数や価格戦略が消費者の行動にどのような変化を与え、サービスの利用につながるかなどを検討し、収益性と環境負荷低減の両立を評価する枠組みを作っています。

企業の現場の声や実データを生かして深掘り

――どの研究も、実社会のビジネスや生活と密接に関わる内容ですね。

佐藤 三菱電機との共同研究では、工場や研究所に出向いて従業員にヒアリングをしています。そのツテで修理会社や回収業者、中古品を整備して新品同様に再生するリファービッシュ業者などを紹介してもらい、話を聞きに行くことも多いですね。

沢田 家電レンタルに関する研究では、通常なら絶対に外に出さないような取引データをほぼ丸々、提供してもらっています。こうしたデータをもとに、細部まできちんと分析して研究できることは非常に面白く、貴重な機会です。

梅田 企業の生の声や事業活動で得られたデータを用いた深掘りは、ここにいる学生たちの研究に共通しています。企業側にも、第三者の視点で分析してほしいニーズがあるのではないでしょうか。さらに、拙速を求めず研究にじっくり取り組むといった、大学ならでは特徴も生かせていると思います。

地球温暖化への問題意識からCEに関心

――学生の皆さんがCEに関心を持ったのはなぜですか。

佐藤 温暖化問題にかねてから関心があったからです。中学3年の卒業論文のテーマにしたほどです。2016年ごろだったと思いますが、再生材を使った製品が発売からわずか1年ほどで頓挫したケースを耳にしました。コスト増がユーザーに受け入れられなかったからだそうです。企業としては、再生材の使用で温暖化につながる二酸化炭素を減らしたいと願う一方で、収益も無視できない。相反するこの問題の解決にはCEが有効だと考えました。

新家 元々、「ものづくり」が好きで工学部に進みましたが、勉強しているうちに、加工技術そのものよりも、製品をいかに社会に導入して役立てていくかに関心が移りました。昨今の環境問題を踏まえると、もはや「質の良い物を提供すればそれでよい」という時代ではなく、環境にも配慮することが重要。それでCEに興味を持ちました。

沢田 研究室を選択するにあたり、私は、基礎研究よりも実社会に近い、ビジネスに関係した研究をしたいと考えました。以前は「環境問題では理想のゴールをただ唱えているだけではないか」と感じていましたが、CEでは、ビジネスを通じてそのゴールをきちんと目指している点が面白く、魅力だととらえています。

清水 私は、工学部の3年で受講したライフサイクル工学をきっかけにCEに興味を持ちました。授業では私たちがコーヒーを楽しむ際の環境負荷について考えたのですが、コーヒー豆を産地から輸送する時だけでなく、例えばカフェでコーヒーを飲めばお店のエアコン使用でも二酸化炭素が排出されていることに気づかされました。ライフサイクル工学では、生産から輸送、使用、廃棄に至る様々な段階で物事をとらえます。それがとても面白く、色々な研究ができるのではないかと考えています。

企業も消費者も意識改革を

――CEの推進にはどんなことが必要でしょうか。また、自身が将来進む道についてどう考えていますか。

佐藤 CEは一企業の取り組みでは限界があり、他の企業との協力が欠かせません。また、個々の企業が保有するデータや技術の開示が必要となるケースも増えてくるでしょう。特許の使用を許諾するなど、できることから情報開示のハードルを下げ、より多くの企業やステークホルダーと取り組んでいくことが求められていると思います。

新家 私は修理可能性の研究をしていますが、消費者が修理したいと思っても、企業側がそれを妨げている面もあるように感じています。修理業者を通じて自社の技術が流出してしまうのではないか、といった懸念からです。企業が競争力や利益を担保することはもちろん大事ですが、環境問題に関しては、許容できる点も探らなければいけないのではないでしょうか。また、企業の努力と同時に、消費者にも物を大切に長く使うといった意識改革が必要だと考えています。

沢田 今、取り組んでいる研究は、ビジネスコンサルティングの疑似体験にもつながっていると感じています。環境を意識した経営やCEの重要性がますます高まる中、この経験を生かして、実務としてCEに携わることができるような仕事に興味があります。

清水 私は、世界をより良くしたいと望む全国の大学生・大学院生が集う「D4C Design Lab(ディーフォーシー デザインラボ)」の第1期メンバーでもあり、世界が環境問題にどう取り組んでいくべきかといったことを考えています。ラボでの活動で、漁港で廃棄された漁網や延縄(はえなわ)漁の釣り糸をサングラスなどにアップサイクルして販売している、宮城県内のベンチャー企業の経営者と話す機会がありました。もともと、漁業関係者がお金を払って廃棄処分していたものが再利用されて、付加価値が付く。私はとてもよい取り組みだと思います。こうした企業が増え、消費者もアップサイクル品の価値を認めてお金を払う社会が広がればと思います。

CEへの取り組みは人材確保でも重要に

――政府は、CE関連市場を2030年に80兆円、2050年には120兆円まで拡大させることを目指しています。次代を担う若い世代をはじめ、専門人材の育成が欠かせません。

梅田 我々の研究室の学生は社会と接点を持つことを望む意識が強く、CEに対する感度がとても高いと言えます。また、将来は自分たちも産業界で活躍するであろうという前提に立ち、原理原則に凝り固まることなく、持続可能性と経済成長の両立を柔軟に考えることも心がけています。

近年、学生の就職活動においても、サステナビリティーを重視している企業への就職希望が強まっている傾向がみられます。今の若い世代は、リサイクルだけでなく、リユースやレンタル、サブスクリプションになじみがあり、一定の環境教育を受けています。大企業に限らず中小企業も、CEにきちんと取り組んでいる姿勢を打ち出すことが、人材確保の面からも重要になってきていると感じています。

大量生産・大量消費を前提としたリニアエコノミーで企業が成長・成功するストーリーは描きにくい時代です。資源的な制約が強まる中、企業は、CEで顧客にいかに価値を提供し、かつ、ビジネスを成立させていくかという思考を繰り返していくことが大切です。世の中がどう変わろうとも、CEは世界のどの国でも通用します。必要とされる知識や考え方を若い世代が身につけてくれることを期待しています。

 

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