国産コーヒー豆ってあるの?福岡でコーヒー栽培に挑戦する「杏里ファーム」の椛島さんにいろいろ聞いてみた!

佐々木 恵美 | 2022.01.28

福岡ではここ数年の間にカフェが増えて、世界的な大会でトップに輝いたバリスタや焙煎士も活躍しています。そこで提供されるコーヒーは、ほぼ全てが海外から輸入されたもの。そんな中、「世界三大コーヒー」と称されるハワイの「コナコーヒー」の農場で働き、福岡で国産コーヒーの生産にチャレンジする27歳の男性がいます。福岡県柳川市「杏里ファーム」の椛島大翔さんに、国産コーヒーのあれこれからご自身の取り組みまで伺いました。

杏里ファームってどんなところ?

福岡県柳川市にある「杏里ファーム」は、いわゆる“農家”という概念を軽やかに飛び越えて、多彩な取り組みで注目されています。もともとは大翔さんの祖父が、い草の栽培からスタート。父親の一晴さんは「自分が作ったものを自分で売りたい」「付加価値を付けた商品を作りたい」という思いから、米と麦、大豆を作り、稲わらを加工して販売。さらにトウモロコシやアスパラ、マンゴー、ライムなどを栽培し、果物を作ったジェラートやアイスキャンディーを売り出すなど、新たな世界をぐんぐん広げています。

■杏里農園 農産物直売所

住所:福岡県柳川市田脇524-1

電話:0944-73-8120

イベント時のみ開園

HP:http://anrifarm.shop-pro.jp/

全国各地で販売されている、レトロなパッケージが魅力的な「アイスキャンデー」は、杏里ファームが営む「椛島氷菓」の商品

■椛島氷菓

住所:福岡県柳川市本城町53-2

電話:0944-74-5333

営業時間:11:00~17:00

定休日:水曜

HP:http://kabajirushi.com/

コーヒー豆はどこで作られているの?最適なのは赤道南北のエリア

そして、長男の大翔さんが2019年の秋から手がけ始めたのが、コーヒーの栽培です。日本では、1週間にひとりが飲むコーヒーは平均11.53杯(2020年/全日本コーヒー協会調べ)にのぼるほど、身近な存在です。しかし、そのほとんどを輸入に頼り、コーヒー生豆を50か国から購入。上位3か国はブラジル・ベトナム・コロンビアで、全体の7割以上(2020年/総務省「貿易統計」)を占めています。日本が輸入に頼っているのには、理由があります。

椛島大翔さん

椛島さん

 

一般的にコーヒーノキを育てるのに最適な環境は、赤道を挟んで南北25度にある熱帯・亜熱帯エリア。「コーヒーベルト」と呼ばれ、気候・雨量・土壌などの条件がいいため、コーヒーの生産が盛んです。一方、日本はそのエリアから外れているので、コーヒーの栽培に適した環境ではないのです。

 

国内の主なコーヒー産地は小笠原・鹿児島・沖縄

最適な環境でなくても、日本でコーヒーを作っているところはあるのでしょうか。

椛島さん

 

日本でコーヒーを栽培している農家は希少で、おそらく数えるほどしかないと思います。国産コーヒーの歴史は新しく、1878年に東京農業大学の創始者・榎本武揚さんが東京都の小笠原諸島で試験栽培したのが始まりといわれています。現在、市場で流通している国産のコーヒーは、小笠原諸島のほかに、鹿児島の徳之島・沖永良部島、沖縄県などと限られています。いずれの産地もまだ流通量がすくなく、安定供給が難しいようです。 

ただ、最近は大手企業も参戦しています。AGF味の素が2017年から徳之島コーヒー生産支援プロジェクトを手がけており、ネスレ日本は2019年に沖縄で大規模な国産コーヒー豆の栽培を目指すプロジェクトを開始しました

 

外国産と国産で、コーヒー豆にはどんな違いあるのでしょうか。

椛島さん

 

国産の最大の魅力は、生豆の鮮度です。海外のコーヒー豆の多くは船便で数か月かけて日本に輸送されます。また、栽培には農薬や肥料が使われており、もちろん日本の検疫をクリアしているのですが、詳細まではなかなか分かりません。

 

消費量が多い割に、国産が少ないコーヒー豆の栽培をスタート!

日本では難しいとされるコーヒーの豆づくりを椛島さんが始めたのは、海外生活がきっかけでした。父親が生き生きと働く姿を見て育った椛島さんは、長男ということもあり、小さな頃から家業を継ごうと心に決めていました。地元の高校を卒業すると、東京農業大学へ進学。実家へ戻る前に、一度はどこかに就職しようと考えていたところ、父親から意外なことを言われたと振り返ります。

椛島さん

 

父に相談したら「今すぐ就職せんでもいいやろう」と言われて、驚きました。仕事を始めたら60歳過ぎまでは働くのだから、今やれることをやっておいた方がいいというアドバイスでした。それなら海外に行ってみようと、オーストラリアに1年弱ワーホリ(ワーキングホリデー)で滞在し、農場を回って働きました。 

でも、そのうちもっと本格的に学びたいと思い、アメリカで1年半にわたり農業の研修を受けるプログラムを見つけて応募したところ、受かりました。自分で作物を選ぶことができたので、コーヒーを希望しました。

 

コーヒーを選んだ背景には、椛島家らしい理由がありました。

椛島さん

 

うちの農園に、コーヒーノキが何本かあったんですよ。商売用じゃなくて、単に誰かがもらってきて置いていただけですが。父はどうせやるなら人と違うこと、面白いことをやろうという人間なので、僕にもそんな志向があって。どうせ海外に行くなら現地でしか見られないようなものを見たいというのと、コーヒーは消費量が多いのに国産は珍しいから、できたら面白いなと思い、コーヒーに決めました

 

こだわりの自家製肥料を与えたコーヒーが順調に成長

2018年の春に渡米。ハワイの「コナコーヒー」農場でコーヒーづくりに関する研修を受けて、新しい知識を吸収していきました。そして2019年秋に帰国し、さっそくコーヒーの栽培に着手しました。

椛島さん

 

僕の帰国までに、父がある程度の準備してくれていたので、スムーズに取りかかることができました。日本人の好みに合うといわれるアラビカ種で、コーヒーノキの苗はもちろん、コーヒーの豆を発芽させて栽培しています。他の国内生産者とのつながりは今のところ全くなくて、コナコーヒーで学んだことをベースに、自分なりに改善を重ねながらやっているところです。今はコーヒーノキが1500本ほどになりました。 

一番こだわっているのは、自家製の肥料です。うちで作った米ぬかなどをブレンドしたぼかし肥料を与え、化学肥料やポストハーベスト農薬などは使っていないので、体に優しいコーヒーができます。あとは地面に植えるのではなく、鉢植えにしているのも特徴です。水や栄養の管理がしやすく、場所を移動できるというメリットがあります。

 

収穫したコーヒーチェリー

栽培を始めて2年3か月ほど経ち、順調に収穫までできているのでしょうか。

椛島さん

 

最初は2020年に少しだけ収穫できて、自分たちで飲みました。日本では作ることが難しいといわれるコーヒー豆がひとまず無事にできたことが、とてもうれしかった。すっきりとしてフルーティな味わいで、みんなおいしいと喜んでくれました。2年目の2021年は少し収穫量が増えたので、クラウドファンディングプラットフォーム「Makuake」でで生豆を販売し、さらにオリジナルの小石原焼の焙煎機もセットにできるようにしたところ、42人の方に応援いただきました。3年目の今回は昨年の2倍近く実がついていて、年末から4月ぐらいまで収穫できます。 

コーヒーの味は、実にさまざまな要素で変わってくるのですが、そのひとつにコーヒーチェリーという赤い豆を収穫して豆にするまでの工程があります。収穫してすぐ赤い果肉をむく方法と、果肉をつけたまま乾燥させる方法があり、今年は両方やって比べているところです。

 

観光農園による地域活性化や多彩な雇用に貢献したい

今年は販売方法において新たな展開も考えています。

椛島さん

 

椛島珈琲として観光農園を始めるつもりです。コーヒーの生豆を収穫して、クラファンのために作った小石原焼の焙煎機で焙煎して持って帰ってもらえたらいいなと思っています。喫茶店の方々にお話をもらって、1月中旬に初めて体験していただいたところです。まだ手探りですが、準備ができたらホームページやインスタで参加者を募っていくつもりです。今年は、体験に来ていただいた方に、コーヒー豆を提供できたらいいなと考えています。 

杏里ファームではトウモロコシの収穫体験やマンゴーの直売などもしていて、やっぱり自分で作ったものに自分で値段をつけて、直接お客さんに提供できることが一番うれしくてやりがいを感じられるので、コーヒーもそうやっていきたいんです。

そしてもうひとつ、観光農園にすると興味を持たれた方々が柳川に足を運んでくだるので、少しでも地元の柳川を盛り上げたいという気持ちも強いですね

 

コーヒーの栽培を通じて、椛島さんにはさらなる夢も芽生えています。

椛島さん

 

今、うちの会社でコーヒーに関わっているのは基本的に自分一人だけです。今ある1500本が全て収穫できるようになれば、もっと人手が必要になります。コーヒーの収穫は赤い実をとるという比較的軽作業なので、高齢者や身障者の方にもやっていただけると思います。ここで幅広い人たちの雇用を生み出せればという夢を描いています。 

杏里ファームでは、父も僕もみんなもプライドを持って、日々楽しく仕事をしています。一般的な農家のイメージは、作業着を着て、大変できつくて地味だと思われているかもしれません。でも、父は前からよく「魅せる農業」を目指したいと口にしていました。若者が夢を見られるような農業を目指して、これからも前向きに明るく新しいことに挑戦していきます。ぜひ国産コーヒーの栽培を応援してもらえるとうれしいです。

 

杏里ファームの後継者となるべく、2年3か月前に柳川に戻ってきた大翔さん。お父様は「失敗したらやめて、また別のことをやればいい」と大らかに見守ってくれるそうで、だからこそ国産コーヒーの生産を軌道にのせ、地域や雇用の新たな可能性を切り拓こうとのびのびとチャレンジされる姿こそ、まさに「魅せる農業」を体現されているなあと感じました。

Content retrieved from: https://fukuoka-leapup.jp/biz/202201.409.

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