お茶に“お金を払う文化へ” 日本茶の価値を世界へ発信するJFOODOの挑戦とは

健康志向の高まりや海外における日本食ブームの影響を受け、近年、お茶の輸出量が増加している。米国向け日本茶の輸出額は、2015年には44億円だったが、2022年には105億円まで伸びている。しかし、米国などではまだまだ日本茶の無償提供が当たり前という状態があり、有償提供によって日本茶の価値をさらに上げていくことが求められる。

こうした世界における日本茶の価値向上に取り組むのが、JFOODOだ。JFOODOは現在、日本茶の価値を高めるため、「マインドフルネス」との関連性を強調し、ブランディングに取り組んでいる。前述の通り、米国における日本茶が無償で提供される現状を受け、2021年からは、食事とのペアリングを意識した日本茶ベースのドリンクを開発。このようなペアリング体験の機会を創出することで、消費者が「日本茶にお金を払っても良い」と感じるようにし、認知の獲得を目指している。

そこで今回、日本茶の現状を踏まえ、JFOODOが推進する価値向上の取り組みについて、JFOODO海外プロモーション事業課長の武田三範氏に聞いた。

輸出額は増加傾向にある日本茶。一方で生産量は低迷するなか「単価」を上げる必要がある

日本の強みを最大限に活かす輸出品として注目される日本茶について、政府は「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」のなかで、2025年までに米国向けの輸出額118億円を達成することを目標に掲げられている。実情はどうかというと、2021年における米国向け日本茶の輸出額は103億円、2022年は105億円と順調に増加傾向にある。こうした日本茶の輸出に関する現状について、武田氏は次のように話す。

「こうした輸出額の増加を牽引しているのが、抹茶です。抹茶といっても飲むわけではなく、ラテやアイスクリーム、歯磨きに入れるなど加工用が牽引しています。さらに、抹茶には抗酸化作用をはじめとした健康に良いというイメージもあります。我々の推測ですが新型コロナウイルスの感染拡大により、健康意識が高まったことも輸出額増加の背景にあると考えています」

JFOODO 海外プロモーション事業課長の武田三範氏

このように輸出額は増加する一方で、日本茶の生産量自体は減少傾向にあり、2006年から2022年までの17年間で、生産量は17%も減っている

「背景として、高齢化の影響による担い手不足が挙げられます。では、なぜ輸出額が増えているのかというと、日本茶は高い単価で取引されているためです。そもそも面積の少ない日本は、中国などの広大な土地を持つ国に生産量では勝てません。そのため、量ではなく質で勝負する必要があるのです」

生産量が減少する日本と比較し、逆に大幅に増加しているのが中国だ。中国茶の生産量は2021年には300万トンを超え、日本の生産量の40倍まで拡大している。

「たしかに世界のお茶といえば中国茶のイメージが強く、事実、世界で40%以上のシェアを中国茶が占めています。しかし、製法の違いによる色の鮮やかさや『テアニン』という成分の含有量などクオリティの差は歴然としており、日本茶のほうが約3倍高い値段で取引されている現状があります。とはいえ、今のうちに日本茶のクオリティが高いというブランディングを通じて単価を上げていかないと、いずれ抜かれてしまうという危機感もあります」

ただ、前述した通り輸出額の多くは加工用の抹茶が牽引している状態であるという。加工してしまうと、直接飲む場合と比べて日本茶の良さが伝わりにくい。

「そこで海外でも、お金を払ってクオリティの高いお茶をそのまま飲んで欲しい。そのためのプロモーションをやっていくのが、直近の我々の動きです」

「マインドフルネス」と紐付けることで、JFOODOが発掘した日本茶の新たな価値

日本茶は、そのクオリティの高さを押し出し、単価を上げることを目指しているが、米国ではまだ無償で提供が一般化している。

こうした現状を受け、JFOODOは2017年度より日本茶に含まれる「テアニン」という成分に着目。「日本茶=マインドフルネス・ビバレッジ」というコンセプトのもと、情報発信をはじめとしたプロモーションを行うことで、「日本茶にお金を払っても良い」という認知獲得を目指している。

「日本茶にはとくに『テアニン』という成分が多く、心の沈静化作用、いわゆるリラックス効果があると言われています。これは、『カフェイン』が多く含まれ、覚醒作用のあるコーヒーとは異なる効果。このリラックス効果が、『マインドフルネス』と結びつけられると考えました。マインドフルネスの状態になるための手段として『瞑想』がありますが、これは心を落ち着かせてリラックスする効果があると言われています。この効果は、テアニンの効能とも合致するため、お茶を飲むことでマインドフルネスな状態になって欲しいという意味で『マインドフルネス・ビバレッジ』というコンセプトを設定しました。日本茶が、テアニンを多く含有しているという機能的な価値を伝えるだけでなく、それをマインドフルネスに結びつけることで、他国産のお茶と分かりやすい差別化ができると思いました」

そしてマインドフルネス・ビバレッジというコンセプトのもと、ミレニアル世代のオフィスワーカーをはじめ、ソーバーキュリアス層にも日本茶を浸透させたいと考えている。

「我々の調査の結果、お茶を飲んでいる層は20代後半から30代後半だということがわかりました。このいわゆるミレニアル世代には、ソーバーキュリアス層といって、あえてお酒を飲まない方もいます。そうした層の方々に、アルコールの代替品としてお茶を飲んで欲しいと考えたのです」

若年層に向けたオンライン・コミュニケーションに取り組むとともに、JFOODOは2021年から、食事とのペアリングを意識した日本茶ドリンクを開発。ペアリングを体験できる機会を創出することで、日本茶に対してお金を払う文化を根付かせようとしている。

「日本でも10年前までは水にお金を払う文化はなかったと思います。それが今では、当たり前にお金を出して水を買うようになりましたよね。そうした行動習慣は、お茶でも醸成できると考えています。日本でもお寿司屋さんなどで『あがり』としてお茶を無料で出すこともありますが、店側としても無料だと高いものはあまり出せません。有料化を通じて質の高い日本茶を提供することは、その価値を向上させ、お店側の利益にもつながります。日本茶は番茶から抹茶までいろいろな種類があるため、ワインなどと同様、食材と合わせるポテンシャルは高い。だからこそ、まずは食事と一緒にお茶を楽しんでもらうことで、お金を払うという文化を根付かせていきたいのです」

世界的に有名な高級日本食レストラン「NOBU」で、日本茶と食事の新しいペアリング体験も実現

具体的な取り組みを見ていくと、JFOODOではすでに、米国にある高級日本食レストラン「NOBU」とタイアップも実施している。

「NOBU」とは、日本料理を世界に広めた立役者の一人と言われる松久信幸氏がオーナーシェフを務める、高級日本食レストランだ。松久氏の料理に魅了された米国俳優の一人であるロバート・デ・ニーロから共同経営の誘いを受け、ニューヨークに初出店したのを皮切りに、現在は世界に50店舗以上を展開。松久氏は、世界一有名なシェフとも言われる。

そんな「NOBU」のニューヨークとロサンゼルスにある店舗で、タイアップが実現。現地の日本食レストランやバーを対象にしたセミナーイベントを開催し、これらのイベントの様子は現地メディアにも取り上げられている。さらに、ニューヨークの人気スポット「High Line(ハイライン)」では、ミレニアル世代のインフルエンサーを使ったイベントを開催。米国の高級和食店では、日本茶モクテルの有料提供も開始している。

「飲食店とコラボすることで、食とのペアリングを楽しんでもらうのはもちろん、今後はお茶の教育にも注力していきたいと考えています。とくに若年層へのコミュニケーションはデジタルを意識する必要があるため、産地の違いによる味の変化などが学べるコンテンツをSNSで発信しながら、気になったら外食で実体験をしてもらうという流れを作りたいです」

飲食店とのコラボレーションや健康志向が高い若年層をターゲットに、日本茶にお金を払うという文化を浸透させようと取り組んでいるJFOODO。最後に武田氏は、機能的な価値だけでは市場での差別化は難しいため、今後はブランドストーリーなど情緒的な価値が大事になると話す。

「私は日本企業と外資系企業の両方でブランディングに関わってきましたが、日本と比べて欧米のブランドは、情緒的価値を価格に反映することに秀でているのです。これはお茶などの生産現場にも当てはまり、どうしても日本の生産者の方は、おいしさという機能的な価値を重視します。もちろん、おいしいということは非常に重要なのですが、これからの時代、機能的な価値だけでは差別化できず、ストーリーなどの情緒的な価値が大事になってきます。特に日本は、伝統的な製法を代々引き継ぎ、その土地に根付く産品があるなど、サステナブルな生産方法が存在しています。これらはまさにブランドストーリーとなり、情緒的な価値を持っていると感じます。そうしたストーリーを、きちんと日本産食材の付加価値として反映させるのがブランディングであり、私たちが取り組むべきことだと考えています」

確かに、機能的な価値はステークホルダーへの説明がしやすい一方で、ストーリーや情緒的な価値については説明が難しいという現状もある。しかし、外食チェーンの味のクオリティが向上し、味だけでは差別化が難しくなった現在、機能による差別化も困難になってきたのも明らかである。そうした状況のなか、情緒的な価値をうまく取り込み、日本産食材のブランディングを牽引する存在としてJFOODOの取り組みに注目したい。

取材・文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介

参照
農林水産省:「茶をめぐる情勢」(https://www.maff.go.jp/j/seisan/tokusan/cha/attach/pdf/ocha-66.pdf)
首相官邸ホームページ:「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/yunyuukoku_kisei_kaigi/dai19/siryou3.pdf)

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