日本ではスペシャルティコーヒーという言葉さえ知られていない時代に生まれ、日本へ最高品質のブラジルを中心とする中南米のコーヒーを届けるセラード珈琲。Standart Japan第28号のパートナーを努めてくれた同社が、昨年に初めて開催した焙煎大会『トーハ・ド・ジャポン ロード・トゥ・ブラジル2024/2025』について語ってくれました。
まずは、昨年初めて開催されたトーハ・ド・ジャポンについて、どのような大会なのかご紹介いただけますか? また、この焙煎大会を開催することになった経緯や理由、そしてセラード珈琲がこの大会を通じてどのようなメッセージを伝えたいと考えているか、お聞かせください。
『トーハ・ド・ジャポン ロード・トゥ・ブラジル2024/2025』は、世界最大の生産国であり、多様性あふれるキャラクターを有するブラジル産コーヒーのポテンシャルを最大限に引き出し、より多くの方にその素晴らしさを認知いただく為の大会です。2024年度に日本大会『トーハ・ド・ジャポン』とブラジル大会『トーハ・ド・ブラジ ル』を行い、日本大会優勝者と準優勝者は、2025年にブラジルで開催される国際大会に出場予定です。ブラジルは皆さんご存知の通り、世界最大のコーヒー生産国でありますが、長年のブラジル側の国策の影響もあり、安かろう悪かろうの位置に甘んじてきました。その結果、安定供給されるそこそこの品質と低価格でもってブレンドベースとして重宝されてきました。ブレンド名にはブラジルとは明記されても、その他大勢に埋もれてしまうのは間違いありません。しかしながら、生産者一人一人を訪ねてみると皆同じではなく、情熱をもってスペシャルティコーヒーの栽培に情熱を燃やしている生産者も多数存在します。 この大会を通して、日本とブラジルのトップレベルのロースターの手で、ブラジルコーヒーにも素晴らしいキャラクターのシングルオリジンが存在することを証明しようとしています。
第一回目の大会を終えてみていかがでしたか? 予選と決勝と、競技者の皆さんやジャッジの皆さんはどのような様子だったのでしょうか。印象に残っているエピソードなどがあれば教えてください。
大会定員の50名を優に超える61名の応募が24時間で埋まった反響にビックリしました。11月に開催されたブラジル大会でも80名の参加者が技を競ったそうで、世界的にロースト技術を競う焙煎大会の機運の高さに驚きを覚えました。予選の参加には焙煎機は極端な事を言えば手編みでも可能となっており、現在の焙煎機の仕様だと半熱風が多いのですが、決勝進出者の10名の内4名が直火式だったこと、SCA方式オンリーのジャッジではないこと、勝ち上がったのが浅煎り一辺倒では無かったことが印象に残りました。決勝進出社の地域も北海道から山形・山梨・福井・大阪・徳島・島根・鹿児島・徳島など地域の偏りが一切なかったのも印象的でした。 決勝進出者には1日2時間セラード珈琲東京オフィスカッピングルームにて練習日が与えられるのですが、地方の方は皆さんプロパンガスが熱源で、都市ガスの東京とカロリー差がある分、温度の上がる方が異なるようで、皆さん首を傾げて不安そうな様子も記憶に残っています。それでも決勝当日にはしっかりとアジャストしてきた姿からも、フロックで勝ち上がる実力や覚悟を感じました。10名毎5ブロックにわけるのですが、上位4名くらいはジャッジも判断に迷う事が多く、再決戦として2回のジャッジが行われたのも選手の実力が伯仲している証拠だと思いました。
大会の参加者枠は、一般の方とは別に、女性優先枠やユース枠をご用意されていました。焙煎の大会としてはとてもユニークな試みかつ、女性の焙煎士や若い世代の焙煎士に機会を与えるという意味で非常に意義があると思います。背景にはどういったお考えがあったのでしょうか? コーヒー業界でのジェンダー平等や若手の活躍について、今後どういった取り組みが必要だと感じていますか?
現在代表を務めている私横山が、㈱セラード珈琲に入社した2000年頃は女性の焙煎士はほとんどみかけませんでしたし、若い焙煎士もいませんでした。それは開業者のほとんどが、第2の人生として、50代以降に開業する事が多かったことも大きな理由かと思います。しかし、ブルーボトルコーヒーに代表されるサードウェーブの到来により、若い世代にとってコーヒーシーンがより身近なものに変化してきました。だからこそ今日、若年層焙煎を手がけるコーヒーを、より多くの人に受け入れてもらうためのエビデンスとして、焙煎大会のような賞レースが必要と思います。 昔は喫茶店オンリーだったのが、現在はカフェやロースターと少しずつ業態も変化しています。開業するハードルは今も昔も低く、そして出口が広い事を忘れてはいけません。皆夢をもって開業されるわけで、個人としては最大限の投資もするわけです。焙煎大会の決勝10名に残ったことで、SNSを通して反響があったと聞いております。我々の大会を通して、新規参入組である若年層にスポットライトが当たることで、彼らの商売の助けになればと願っております。また、この大会をきっかけに、焙煎に付随する以前の男性社会のイメージの強い武骨なイメージを払拭するきっかけになればと考えています。焙煎は重労働ではありません。ジェンダーに関わらず誰もが挑戦できる、魅力的な仕事であるべきですから。
国際大会が今年ブラジルで開催されるということですが、ブラジルでの大会開催に向けて、どのような準備を進めているのでしょうか? また、日本とブラジルの焙煎士が共に競い合うことで、両国の焙煎技術にどのような影響を与えると考えていますか?
8月にブラジルで国際大会を開催します。それに向けて、ミナスジェライス州セラード地域にある輸出会社のエキスポカセールやカフェブラス社に、会場提供だけでなくスポンサーとしても協力いただくことになっております。ブラジル大手の焙煎機メーカーであるアチェラ社には、ブラジル国内大会予選から8月の国際大会にかけて焙煎機提供いただくことも決まっております。ポルトガル語話者は英語話者に比べると極端に少ないですが、セラード珈琲のポルトガル語が堪能なスタッフがサポートに付きます。セラード珈琲スタッフは皆日々の業務の中で焙煎を経験しておりますので、コーヒー業界独自の難解な業界用語にも対応可能で、ただの通訳ではなく、しっかりと意思を伝える事が可能です。生豆の世界はスペシャルティコーヒーの広がりとQグレーダーの存在により、評価が統一されました。焙煎は未だ人それぞれの領域ですが、この様な焙煎大会が開催される事で、焙煎豆のあらかな評価軸が生まれるのではないかと期待を膨らましています。審査員も日本側から2名参加し、ブラジル側と共にジャッジする事で、国毎に好みに偏りが無いよう配慮しております。事前にしっかりとカリブレーションの時間も設けて、ジャッジの中でも共通認識を徹底します。
日本とブラジルで焙煎の方法や味の嗜好など、違いがあれば教えていただきたいです。
日本側ではサードウェーブの到来以降、一時浅煎り傾倒となりましたが、最近は深煎りの焙煎豆を提供する店舗も増え、様々なグラデーションがあるイメージです。一方、ブラジルは輸出規格に満たない低品質の生豆を超深煎りに焙煎し、大量に砂糖を入れるカフェジーニョという伝統的な飲み方が一般的だったのですが、最近では日本や欧米と同じくブラックで提供するコーヒー店も増えております。その様な先進的な店舗では浅煎りの焙煎が好まれます。
今年も7月に第二回目の開催を予定されているそうですが、今後どのように大会を進化させていきたいと考えていますか? 特に注力したいポイントがあれば教えてください。また大会を続けていくことで、日本国内や世界のコーヒーカルチャーの発展に対して、どのように貢献したいと考えていますか?
日本国内に留まらず、優勝者と準優勝者には国際大会に出場する事が、大きな魅力となっております。国際大会の会場をブラジル以外にも広げる事も面白いかなと考えております。セラード珈琲というブラジルの産地名が社名となっておりますが、現在は16ヶ国の生産国と取引が有り、現地でバックアップしてくれる輸出会社や組合も存在しますので、そのネットワークを活かしつつ、現地の焙煎士とも交流できればと存じます。ブラジル生豆の焙煎技術の向上はもちろん、様々なオリジンがフォーカスされる多様性のある大会にしていきたいです。
この記事は、Standart Japan第28号のパートナーセラード珈琲の提供でお届けしました。
次回のトーハ・ド・ジャポンの詳細については、セラード珈琲およびグループ会社である小分け専門会社マドゥーラのインスタグラムやHP、そして同社のメルマガ配信にて情報を配信しています。