2015年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)で、ササ・セスティッチ氏が「カーボニック・マセレーション(嫌気性発酵の一種)」を持ち込んだ時、業界は騒然としました。
「コーヒーにワインの作り方を持ち込むなんて」という驚きとともに、その味わいは瞬く間に世界を席巻しました。
あれから約10年。
2026年の今、コーヒーの発酵プロセスは完全に「実験(Experimental)」のフェーズを終え、「標準化(Mainstream)」のフェーズに入ったと言えます。
象徴的だったのが、2024年の各国大会(National Championship)や世界大会での光景です。
なんと、ビール醸造用のホップを投入した「Hop Fermentation」を使用した選手が4名以上も見られました。
かつては変わり種扱いだった手法が、今や世界で勝つための「武器」として定着しています。
さらに、コロンビアの名門農園「La Palma & El Tucán」のように、森の微生物を採取して発酵をコントロールする「Bio-innovation」といった高度な技術も登場しています。
2026年、私たちが飲むコーヒーは、単なる「農作物」から、緻密に計算された「醸造品(Brewed Product)」へと進化しました。
この記事では、今年絶対に押さえておきたい発酵トレンドの最前線を、どこよりも詳しく解剖していきます^ ^
なぜ今「発酵」なのか? ── 2026年トレンドの全体像
そもそも、なぜここまで「発酵、発酵」と言われるようになったのでしょうか。
単に「新しい味が欲しいから」だけではありません。
ここには、コーヒー業界が直面している問題があります。
「良い豆」だけでは差別化できない時代の到来
一昔前までは「標高が高くて、品種がゲイシャなら最高」という図式が成立していました。
しかし現在は生産技術が向上し、どの農園も高品質な豆を作れるようになっています。
農園側としては、「テロワール(土地の味)」だけでは他と差がつかなくなっているのが実情です。
そこで台頭したのが「プロセス(処理)」による差別化です。
ワイン業界の知識を取り入れ、「酵母」や「温度」を管理することで、意図的にフレーバーを作り出す。
これが現代のスペシャリティコーヒーの流れになっています。
ワイン産業からの技術流入(醸造学の勝利)
このトレンドの裏には、間違いなくワイン産業の影響があります。
例えば「カーボニック・マセレーション(CM)」も元々はボジョレー・ヌーヴォーを作る技術ですし、最近ではワイン用の酵母(LalCaféなど)をコーヒー発酵に転用することも一般的になりました。
コーヒーは今、「農業」から「サイエンス(醸造学)」の領域へと移ってきています。
競技会(コンペ)からカフェへの「技術のトリクルダウン」
「大会用のコーヒーなど、日常では飲まない」と思われるかもしれませんが、それは誤りです。
2015年のCMプロセスが今や高級ラインの標準になったように、2024年に話題になった「Galaxy Hops(ホップ発酵)」のような強烈なプロセスも、2026年には感度の高いロースターのラインナップに並び始めています。
トップバリスタたちが「審査員にインパクトを与えるために開発した味」が、数年遅れで私たちのカップに注がれる。このサイクルが完全に確立されたのが、2026年という年なのです。
発酵処理の6大トレンド ── 技術解説と味わいプロフィール
それでは、具体的にどのような手法が2026年の主流となっているのか、難しい専門用語を整理して、その味わいの特徴を解説します。
1. Anaerobic Fermentation(嫌気性発酵):特別から”当たり前”へ
密閉タンクで酸素を遮断し、嫌気性微生物の活動を活発にすることで、独特のトロピカルフルーツやスパイスのようなフレーバーを生み出す手法です。
かつては「特別な処理」でしたが、2026年現在はかなり一般的なオプションとなりました。
ただし、品質の格差は依然として大きくて、管理が甘いと「単に臭いだけ」の豆になってしまうリスクもあります。
2. Carbonic Maceration(CM):ワイン技術の完全定着
ステンレスタンクにCO2(二酸化炭素)を注入し、酸素を排除する手法です。
Anaerobicよりもさらに制御された環境で発酵が進むため、非常にクリーンで明るい酸、そしてシルキーな口当たりが特徴です。
2015年の導入から10年が経過し、現在は高級ラインにおける「信頼できる品質」として定着しています。
3. Double/Extended Fermentation:多段階発酵の複雑性
一度の発酵で終わらせず、パルピング(皮むき)の前後で二度発酵させたり、100時間以上の長時間発酵を行う手法です。
代表的な事例は、コロンビアのLa Palma & El Tucánが行う「Bio-innovation」プロセスです。
森の微生物を採取・培養して独自のスターター(種菌)を作り、多層的な「うまみ」やダークチョコレートのような深い複雑さを表現しています。
4. Yeast/Kombucha Fermentation:特定酵母による「味の設計」
自然界の菌任せにするのではなく、ワイン酵母やビール酵母などを意図的に添加する手法です。
最大の特徴は「再現性」と「予測可能性」です。
特定のストーンフルーツやベリーの香りを狙って出すことができるため、まさに「味を設計できる」プロセスと言えます。
5. Hop Fermentation:もはやコーヒーではない? 賛否両論の”飛び道具”
2024年のトレンドを席巻したのが、発酵槽にビール用のホップ(Galaxy HopsやCitra Hopsなど)を投入する手法です。
その味は衝撃的で、ライム、シトラス、強烈なフローラル感があり、もはやコーヒーというよりIPA(インディア・ペールエール)に近い仕上がりになります。
コロンビアのEdwin Noreña氏(Finca Campo Hermoso)による「Galaxy Hops」シリーズが特に有名です。
「コーヒー本来の味ではない」という批判もありつつ、2024年の各国大会では4名以上の選手が採用するなど、競技会でのインパクトは絶大です。
6. Experimental Drying:地味だけど最重要な「乾燥の革命」
発酵ばかりが注目されがちですが、実は「乾燥(Drying)」こそが品質保持にとって重要です。
湿度と温度を完全に制御した室内で、除湿機やエアコンを使って低温で長時間乾燥させる手法(Cold Dryingなど)が、超高級ロット向けに採用されています。
パナマのFinca Deborahなどが有名で、発酵で生み出した繊細なフレーバーを飛ばさずに閉じ込めるための、最もコストのかかる工程と言えます。
2026年のコーヒーは「醸造」される ── ワインとの境界線
第2章で紹介した「Hop Fermentation(ホップ発酵)」などの登場により、業界では今、ある大きな議論が巻き起こっています。
それは、「どこまでがコーヒーで、どこからがフレーバー添加(Infused)なのか?」という境界線問題です。
“Infused” vs “Process” の線引き
従来、コーヒーのフレーバーは「豆そのものが持つポテンシャル」を引き出すものでした。
しかし、ホップやフルーツ、シナモンなどを発酵槽に投入する方法は、外部からの味の添加に近い行為とも言えます。
ワイン業界で言えば、ブドウ以外の果物を混ぜた「サングリア」はワインとは区別されます。
コーヒー業界でも2026年は、これらを明確に「インフューズド(Infused)」や「共発酵(Co-Fermented)」と表記して区別すべきだという動きが、消費者保護の観点からも強まってるようです。
科学的管理による「再現性」の追求
一方で、この流れは良い側面もあります。
それは「運任せの発酵(Natural)」から「科学的にコントロール(Brewing)」することができるようになったことです。
味が安定し、狙ったフレーバーが確実に作れるようになったことは、おいしいコーヒーを飲みたい私たちにとっても、すごく良いことなのかもしれません^ ^
日本で飲めるのか? ── 入手方法と今後の展望
さて、これら2026年の最先端コーヒーは、日本で楽しめるのでしょうか?
日本国内での入手状況
結論から言うと、飲めるようになるとは思いますが、ある特定のお店だけ、となる可能性が高いです。
私が住んでいる埼玉・川口エリアのロースターさんもレベル高いんですけど、さすがに「ホップ発酵」みたいな尖った豆にはまだ出会えてないですね…。
2026年後半の予測:表示の透明化
2026年後半から2027年にかけて、日本のロースターでも「発酵の詳細」をメニューに記載する店が増える、と私は思います。
「コロンビア・アナエロビック」だけでなく、「コロンビア・Galaxy Hops Co-Fermentation」のように、何を使って発酵させたかが、今後コーヒー豆のパッケージに記載されるようになるかもしれません^ ^
まとめ
2026年のコーヒー発酵トレンドは、単なる「流行」を超えて、コーヒー生産における「技術革新」の域に達しています。
もしカフェで変わった味わいのコーヒーに出会ったら、「このコーヒーの発酵について教えてください?」と聞いてみてください!
ひょっとしたら「実はこれ、酵母を使ってるんですよ」とか「これはホップと一緒に発酵させてて…」といった話を聞けるかもしれませんよ^ ^
参考リンク
Sprudge: 2024 US Coffee Championships Winners
Perfect Daily Grind: Specialty coffee wine processing
Onyx Coffee Lab: Colombia La Palma Bioinnovation
Juntos Podermos: Edwin Noreña Galaxy Hops
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