ゾウの糞から取り出した豆でいれたコーヒーは、どんな味がするのだろう。コーヒー2杯分の豆が入った小袋のお値段は、約150ドル(約2万2000円)。世界で最も高価なコーヒー豆の一つに数えられ、高級ホテルで提供されたり、わずかだがオンラインでも販売されている。
この高価なコーヒー豆を作るために飼育されているアジアゾウは、餌としてコーヒーの実や果物を与えられる。食べたものは胃の中で発酵して果肉が分解される。そのおかげで豆の苦みが取り除かれるのだと、豆を販売するブレイク・ディンキン氏は言う。氏は2012年に「ブラック・アイボリー・コーヒー」社を創業したカナダ人で、タイ北部のスリン県で7頭のゾウを所有する業者と契約し、コーヒー豆を製造・販売している。
ゾウの糞コーヒーの販売で唯一看板を大きく掲げるブラック・アイボリー・コーヒーの豆は、チョコレート、カカオニブ、桃、タマリンド、紅茶のほのかな香りがし、加えてそのときゾウの胃に入っていた素材が何であれ、それが味に深みを持たせている、とうたう。
豆の価格は、2012年には2杯分で60ドルだったが、今では150ドルにまで上昇した。450グラムの箱入りは、1500ドル(約22万円)で売られている。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行中に広く知られるようになり、売り上げが急増した。家に閉じこもりきりで、何か新しいものに挑戦したいと思っていた消費者への直接販売が劇的に伸びたおかげだと、ディンキン氏は語る。
2023年の生産量はわずか250キロと、今や世界で最も希少なコーヒーになっている。
ジャコウネコのコーヒーの巨大な市場規模
ゾウに限らず、動物の糞から採取されたコーヒー豆が今、注目を集めている。ブラジルには、南米原産のカオグロナキシャクケイ(Pipile jacutinga)と呼ばれる絶滅危惧種の鳥の糞から取り出し、洗浄、焙煎したコーヒー豆がある。また、糞ではないが、サルが実を食べた後吐き出した種子を集めて焙煎したものもある。
しかし、「自然に精製」されたコーヒー豆として最もよく知られているのは、パームシベット(Paradoxurus hermaphroditus)という動物の糞から採取された「コピ・ルアク」だ。
孤独を好み足の短いパームシベットはジャコウネコ科ハクビシン亜科の仲間で、東南アジアが原産だ。その糞から採取されたコーヒー豆は、数十年前から存在する。ナショナル ジオグラフィックが初めてこれを報道したのは1981年だったが、その後も反響を呼び続け、需要が拡大した。