愛媛県産のサトウキビを原料にするラム酒づくりを進める、小さな醸造所、天神村醸造所が注目を集めている。世界四大スピリッツ(ジン、ウオッカ、ラム、テキーラ)の中で、クラフトジン、ジャパニーズウイスキーなどが人気を集めているなか、“ジャパニーズクラフトラム”という新しいムーブメントを国内、海外含めて打ち出そうとしているのである。今年10月にはドイツのベルリンで開催されるスピリッツ専門展示会に出展する予定だ。クラフトラムに左党の間でも関心が寄せられている。
天神村醸造所が製造するラムラム酒をつくるのに 日本酒の酵母を使用
実家が日本酒の酒蔵(1716年創業)だった縁で家業の手伝いのために、亀岡晶子さん(51歳)は英国の大学院を終えて、東京の環境保全団体に務めた後、帰郷。自身の蒸留酒造りを始めるために、スピリッツ製造免許を取得して天神村醸造所(本社・愛媛県喜多郡内子町)を2020年8月に起業した。故郷の内子町に戻り、実家の酒造設備をそのまま譲り受けて、亀岡社長は「愛媛県産のラム酒」「愛媛のラム酒を世界に」という大きな夢を持って動き出した。
「ラム酒をつくるのに日本酒の酵母を使うと面白そう」という発想のもと、他社との差別化商品の開発に熱中した。亀岡さんはもともと、父親の影響でアルコールの熟成には興味を持っていたのでスピリッツの勉強に邁進した。
亀岡社長は「国産の原料にこだわり、愛媛県産のサトウキビを活かした、クラフトラムに絞りした。私が思い描くクラフトラムは、小規模で限定生産、独自の製法(日本酒の酵母使用)。さまざまな酵母を長く扱っていたので、他社のクラフトラムとは異なる強みを出せると思います」という。
同社が商品化したラム酒は数量に限りがあるが、700ml入りの瓶詰で月100本を製造、出荷している。オープン価格で設定しているが、「ラムアグリコール」(700ml、2万円)、「ホワイトラム」(700ml、9800円)の参考価格で市場に出回っている。
同社のクラフトラムの味について飲んだ人からは「日本酒の酵母由来のパイナップルやバナナの香りがする」「2、3週間、発酵させて蒸留したので、クリアな味わいになる」「フルーティーで大吟醸の味がする」などの意見が寄せられている。
同社は一般販売はせず、9都道府県のバーや酒店(小売業)で取り扱いがある。「ラム酒を購入したいという一般消費者からの問い合わせも多く、近くの販売店をご紹介しています。バーに通っているラム酒ファンには酒店で購入するか、バーで飲んでいただいています」(亀岡社長)
“ジャパニーズクラフトラム”の新ジャンルを打ち出す
糖蜜製造シーン一般消費者への直接販売はしていないが、クラフトラムの普及と卸業者、酒店、バーなどへの販促活動はSNS(交流サイト)を活発に活用している。クラフトラムのファンは口コミ情報の入手を積極的に行っており、一般消費者からの「クラフトラムはどこで飲めますか」の問い合わせに対しては、近所の酒店やバーをサイトでも紹介している。
ラム酒の原料はサトウキビ。数は限られているが、愛媛県内でもサトウキビを生産している農家があり、農家および健康食品会社から仕入れている。収穫後、すぐに圧搾した汁を冷凍し、醸造所で解凍して使用。もともとラム酒は、サトウキビの糖蜜または搾り汁を原料としてつくられる蒸留酒である。
アルコール飲料としてストレートで飲まれたり、カクテルのベース酒として、またはケーキなどの焼き菓子の風味付けにも使用されているラム。アルコール度数は平均40度から50度と高いが、天神村醸造所の商品は42度である。
「愛媛のラム酒を世界に」の思いを込め、製造する亀岡晶子社長卸業者や酒店などとの扱い数は、1ケース(700ml、12本)からの小ロットである。同社はクラフトラムを主力商品として扱っているが、夢は世界を目指している。
亀岡社長は「クラフトラムを四国の小さな町で製造し、世界中に広げるのが夢です。“ジャパニーズクラフトラム”をラムの新ジャンルとして、世界に広げていくために、ラムを製造している仲間(業者)を広げていきたいと思っています。秋に、ドイツベルリンのスピリッツ専門展示会で、ジャパンニーズクラフトラムをアピールする予定です」という。
亀岡さんは大学時代は物理学を専攻し、英国へ留学後には環境保全団体に所属、語学が堪能で、酒造りにも通じ、国内と海外を睨んだ事業展開に積極的である。亀岡さんが製造しているクラフトラムは「小規模で限定生産、そして独自の製法」など、オリジナリティーの高いジャパニーズクラフトラムに仕上がっている。既に、台湾、インドネシア、スイスなどの企業から、ジャパニーズクラフトラムに関する情報の問い合わせが始まっている。クラフトラム市場拡大に向けて邁進する同社から目が離せない。