仕事や家事、年内に片づけたい用事で、気づけばスケジュール帳がぎゅうぎゅうになる年末。やることがたくさんで、自分の時間がなかなかとれない…そんなふうに感じることはありませんか。
そんなときこそおすすめなのが「短編集」。一話ごとに区切りがよく、通勤や家事の合間でも、物語の世界にふわっと入り込むことができます。
今回は、忙しい年末のスキマ時間にぴったりな「心あたたまる」短編集5冊を編集部がピックアップ。あわただしい毎日の合間に、そっと自分をねぎらう読書のひとときをつくってみませんか♪
【1】忘れられない“食卓の記憶”に、じんわり胸が温かくなる一冊
『あつあつを召し上がれ』(著者:小川 糸/出版社:新潮文庫)
七つの短編それぞれに、「一生忘れられない一皿」が登場する、食べものがテーマの短編集です。母から受け継いだおみそ汁、祖母に届けるかき氷、恋の終わりとともに味わう松茸料理など、人生の節目にそっと寄り添う料理が物語の中心に据えられています。
どの話にも少しの切なさがありつつ、最後には「出会えてよかった」と思えるぬくもりが残るのが小川糸さんらしさ。読んでいると、自分の中にもある“あの時のごはん”の記憶がふっとよみがえり、過去の自分や大切な人をやさしく抱きしめたくなります。
年末は、家族や自分のこれまでを振り返るシーンも増える時期。一日の終わりに一編ずつ味わえば、「ちゃんとやってきたよね」と、自分自身にあたたかい言葉をかけたくなるような一冊です。
【2】ラジオの声と台所の匂いがまざり合う、静かな12編の物語
『台所のラジオ』(著者:吉田 篤弘/出版社:角川春樹事務所)
小さな台所でラジオのつまみをひねると、穏やかな声が部屋に広がる――そんなワンシーンから想像がふくらむ、12編からなる短編集です。
紙カツやビフテキ、ミルクコーヒー、夜更けのお茶漬けなど、どこか懐かしい料理がたびたび登場し、そのたびごとに登場人物の記憶や感情が静かに浮かび上がります。
それぞれの短編は直接つながっていないようでいて、台所のラジオという存在を通して、ゆるやかに世界が続いているのが印象的。大事件が起こるわけではないのに、「なんでもない一日」の愛おしさがじわじわと胸に広がり、自分の暮らしの中の台所の風景にも光が当たるような読後感があります。
家事をひと通り終えて、食器を片づけたあとの静かな時間に、一編ずつ読むのも◎忙しい年末でも、ラジオと湯気の立つごはんがある台所は、こんなにも温かな場所なのだと気づかせてくれる一冊です。
【3】マグカップから立ちのぼるココアがつなぐ、やさしい人間関係
『木曜日にはココアを』(著者:青山 美智子/出版社:宝島社)
川沿いの桜並木のそばにたたずむ「マーブル・カフェ」を舞台に、そこに集う人たちの日常を描いた連作短編集です。
木曜日にいつもココアを頼む女性や、その姿を見つめる店長、遠く離れたシドニーで暮らす人々…。一見バラバラな登場人物の物語が、少しずつつながっていく構成になっています。
物語に出てくる出来事は、ネイルを落とし忘れた、ココアを一杯頼んだ、卵焼きを作った…など、どれもささやかなものばかり。けれど、その小さな選択や偶然が重なり合い、やがてひとつの命を救うことにつながっていく展開に、じんわり胸が熱くなります。
「自分の何気ない行動も、どこかで誰かを支えているのかもしれない」。そんなあたたかい実感をくれる一冊。年末のバタバタで、人間関係に少し疲れてしまったときにも、「人と人のつながりって悪くないな」と思わせてくれる物語です。
【4】心がくたびれた朝に寄り添う、“あなたのための”朝ごはん
『カフェどんぐりで幸せ朝ごはん』(著者:栗栖 ひよ子/出版社:KADOKAWA)
舞台は、鎌倉にあるツリーハウス付きの「カフェどんぐり」。ここでは、学校に行きたくない女子高生には具だくさんの台湾おにぎり、疲れ切ったサラリーマンには滋養たっぷりのスープ、夢を追う俳優の卵には甘いミルクレープなど、その人にぴったり寄り添う“朝ごはん”が出てきます。
登場人物たちは、仕事や人間関係、家族の事情など、それぞれに悩みや迷いを抱えています。けれど、温かな朝ごはんを囲むひとときの中で、「本当はどうしたいのか」「何を大切にしたいのか」に少しずつ気づき、また歩き出していく姿が描かれます。
「こんなお店に行ってみたい!」と思うような素敵なお店の雰囲気と、店主の人柄に思わずほっと癒されます。忙しい毎日の中でも、「今日もなんとかやってみよう」とそっと背中を押してくれる一冊です。
【5】40代からの“女ふたり旅”が教えてくれる、人生の寄り道の楽しみ方
『ハグとナガラ』(著者:原田 マハ/出版社:文藝春秋)
大学時代の同級生だった「ハグ」と「ナガラ」。長く会えないまま年月が過ぎ、恋人も仕事も一度に失ってしまったハグのもとに、ナガラから「一緒に旅に出よう」とメールが届くところから、ふたりの女旅が始まります。
四十代、五十代と年齢を重ねながら、季節ごとにあちこちへ出かける六つの旅物語です。
秘湯に浸かったり、その土地の名物を味わったり、ただ景色を眺めておしゃべりしたり…。旅先での時間は楽しいだけでなく、親の介護や将来への不安、自分の選択への後悔など、見たくない現実とも向き合うきっかけになります。
それでも最後には、「完璧な成功者じゃなくても、自分の人生を楽しんでいい」と思わせてくれる、あたたかな余韻が残ります。
「今年もあっという間だったな」「たいしたことができなかったかも」と自分を責めがちな年末にこそ読みたい一冊。読み終えたころには、「ここまで頑張ってきた自分を、もう少し優しく扱ってあげよう」と思えるはずです。

秋の夜長に読みたい!「心をゆるめるおすすめの本」5選
夜が少し長く感じる秋。湯気の立つカップを手に、静かにページをめくる時間を過ごしたくなりますよね。本を開けば、遠い記憶の中のぬくもりや、誰かのやさしさ、自分の中の静けさに出…
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あわただしい年末でも、本のページを開けば時間がゆっくり流れ始めます。
全部を読み切らなくても、一編を読み終えるたびに、心のどこかがふっと温まるはず。気になった一冊を、通勤や寝る前の相棒にして、自分をいたわる読書時間をつくってみませんか?




