オイシックス・ラ・大地(東京都品川区/髙島宏平)は、このほど、給食専用の業務用ミールキットを活用して、「保育給食事業」に本格参入することを発表した。同社がこれまでBtoC領域で培ってきたノウハウを活かし、BtoBの領域でも事業を拡大するという。詳細をレポートする。
左がオイシックス・ラ・大地BtoBサブスク事業本部長・執行役員の濱崎真一氏、右が同事業本部施設食材流通事業部部長の清水崇司氏めざすは保育園給食の
業務負担軽減
食品のサブスクリプションサービスを提供するオイシックス・ラ・大地は、保育施設を対象とした給食の事業ブランド「すくすくOisix」において、従来取り扱っている給食用の手作りミールキットサービスの商品ラインアップ強化や、給食の受託運営事業を提供するシダックス(東京都)との協業などを通じて、サービスの幅を広げる新戦略を発表した。
同社は「食に関する社会課題を、ビジネスの手法で解決する」をミッションに、国内BtoCや海外BtoCなど複数の領域で事業を展開している。認知度が高いのが国内BtoCで、自宅に届ける食材をもとに約20分で主菜と副菜の2品が作れる献立ミールキット「KitOisix(キットオイシックス)」の累計出荷食数は1.5億円を突破している(2013年7月~2023年6月時点)。
同社は2015年から、「らでぃっしゅぼーや(2018年に経営統合)」にて保育施設を対象とした食材販売サービスを行っていた。当初は名前がなかったが数年前に「すくすくOisix」という名前の事業ブランドとなり、22年10月、新たに立ち上がったBtoBサブスク事業に組み込まれた。
BtoBサブスク事業では、保育園、幼稚園、病院、高齢者施設など国内の給食市場を対象に、独自の献立作成や食材の販売を通じて、各施設の業務負担を減らすサービスの提供をめざす。
参入背景には、給食市場は4.5兆円と大きな規模を誇るものの、年商100億円を超える企業は全体の約2割と寡占企業が少ないことがある。
今回、保育給食事業を本格化させるうえで要となるのが、給食専用の業務用ミールキットだ。専属の管理栄養士が「鶏のおろし煮」「こまつなとにんじんの納豆和え」など独自に献立を作成し、カットされた食材が必要な量だけ園に届く。食材にはレシピが同封されているが、味つけは各園のさじ加減で調整できる。
製品が届くまでのプロセスを(1)生産者からの共同での食材調達、(2)製造工場での業務用ミールキットの製造、(3)保育園や病院へのメニュー共有(提供)、(4)PRという4つに分け、それぞれに(1)高品質・低コスト調達、(2)ミールキットの製造設備、(3)高付加価値商品の開発、(4)食への関心が高いお客への訴求と、同社がBtoC領域で構築した強みを生かす。
これまでミールキットを提供してきたのは自園調理を行う園のみだったが、今後は委託調理を行っている園へのサービスも提供する。
オイシックス・ラ・大地は、22年に業務提携を結んだシダックスとの連携もさらに強化する。シダックスのノウハウを用いて、保育園の運営コンサルティングや委託運営などにもサービスの幅を広げていく。これらの取り組みによって、BtoBサブスク事業を単体で数百億円規模に拡大したい考えだ。
栄養士の「働き方改革」に挑戦
「すくすくOisix」の導入成果として、同社がねらうのが保育園給食の運営を支える栄養士の「働き方改革」だ。
これまでも保育園と取引を行う中で、同社が課題意識を感じていたのが栄養士(管理栄養士)や調理員の離職率の高さだった。要因の1つが、働く時間の長さだ。同社の調べによれば、栄養士の1日の業務時間のうち、調理関連事業は70%以上を占めており、そのために子どもたちや保護者と向き合う時間が不足する状況があったという。
給食用ミールキット。肉・野菜ともに食材は下処理されており、洗浄作業の負担を軽減する。「給食用手作りミールキット」を用いた場合、調理時間を1日2.5時間程度短縮し、食材費・人件費の総額を購入前に比べて18%削減できる(80人規模の保育施設の場合)。
また、給食だよりや調理指示書に必要な「食品群別(穀類・野菜類)」「平均摂取量」などのデータを提供することで、事務作業を省力化でき、運営のトータルコストが削減できるというメリットもある。
現状、オイシックス・ラ・大地が保育施設への通常食材やミールキットの卸売りといった保育園給食事業で取引を行っている保育園は762施設(2023年7月14日時点)で、売上は14億円(2022年末時点)。27年までに保育園3000施設への導入をめざす。
762施設のうちミールキットを使っているのは現状、数十施設に留まっている。同社の独自調査によれば全国の認可保育所、認定こども園、小規模保育のうち、給食を自園で調理しているのは約8割、委託が約2割。栄養士自身が献立をつくっている園の場合、同社が献立をつくるスタイルに難色を示されることもあるという。
オイシックス・ラ・大地株式会社BtoBサブスク事業本部本部長・濱崎真一氏は「自社で献立を作ると言っても、オイシックスのミールキットは完全に調理済みの食品、いわゆる『完調食』ではない。味付けは各園に委ねられており、手作り感がある。『手抜き』食品ではないことは自信を持ってお伝えしたい」と話す。
BtoC領域において高い存在感を持つ同社のサービスは、BtoB領域でどの程度受け入れられるのか、注目される。