ダイヤモンド・リテイルメディアが2022年にスタートし、今回2回目の開催となった表彰企画「サステナブル・リテイリング表彰」の受賞企業が決定した。昨今、食品小売業界ではこれまで以上に社会のサステナビリティ(持続可能性)への貢献が求められるようになっているなか、優れた3つの施策が選ばれた。その取り組みと、専門家から評価されたポイントをレポートする。
18組織から30の施策集まる
まず「サステナブル・リテイリング表彰」について紹介したい。本企画は、ダイヤモンド・リテイルメディアが、食品小売企業がサステナビリティの実現のために実践している施策を募集し、集まった施策の中から専門家の審査によって受賞施策を決定し表彰するものだ。
本企画を立ち上げた背景には、食品小売企業におけるサステナビリティの重要性が増していることがある。消費者の価値観の変化により、サステナブルであることは、選ばれる店や商品になるための重要な判断軸の1つになりつつある。また、商品原価が高騰するなか廃棄ロスなどのムダ削減が喫緊で求められているなど、サステナビリティは、企業が今後生き残っていくためにも取り組むべき課題となっている。
本企画では、食品小売業のなかでも優れた施策を表彰して、業界の好例を広く発信し、サステナブルな取り組みの活性化を図ることを目的としている。
また、第2回となる今回は、募集対象を「食品小売業の施策」だけでなく「食品小売企業と連携して取り組んだ施策」まで広げ、食品小売企業以外にも参加を呼びかけた。昨今、業種を越えて企業間で連携することでサステナビリティの実現をめざす動きも増えており、こうした取り組みを後押しすることをねらいとしている。
今回集まったのは計18組織から30施策。大手食品スーパーからローカルスーパー、コンビニエンスストア、生協、食品ECと幅広く応募があり、食品小売企業と連携した施策として、食品卸、食品メーカーからも施策が寄せられた。
選考は次のように行った。「ダイヤモンド・チェーンストア オンライン」上で応募を呼びかけ集まった施策を、サステナビリティ領域の専門家5人による選考委員が審査した(選考委員一覧)。
審査方法は、まず下記(※)の選考基準より定量評価(該当項目の数や、平均スコアなどから)し、その上位施策のなかから最後は選考委員のディスカッションにより計3つの受賞施策を決定した。ここで伝えておきたいのは、本企画ではサステナビリティに関する「施策」を表彰している点だ。発表に当たって企業名を挙げているが、前提としてその施策に焦点を当てている。
※選考基準:「顧客・従業員・取引先・地域への波及、効果」「環境問題への貢献」「ダイバーシティ・人権への対応」「健康・福祉への貢献」「定量的な結果」「経済・業績への貢献」「新規性・アイデア性」「今後の拡張性」 「企業間による連携」「食品小売業が取り組む意義」
それでは、第2回の審査結果を発表しよう。
今回は、「プロダクト・イノベーション賞」としてオイシックス・ラ・大地(東京都/髙島宏平社長)の「アップサイクル食品開発の取り組み~Upcycle by Oisix~」が、「Leave no one behind(誰も取り残さない)賞」として、アークス(北海道/横山清社長)の「買物難民対策」が、「企業間連携賞」として、セブン‐イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長:以下、セブン-イレブン)、サンデン・リテールシステム(東京都/森益哉社長)、東洋エンジニアリング(千葉県/細井栄治社長)、日立製作所(東京都/小島啓二社社長兼CEO)、リコー(東京都/大山晃社長)の5社による「先進的な省エネ・創エネ・蓄エネ設備を備えた新たな環境負荷低減店舗の挑戦」が受賞した。
オイシックスの商品
プロデュース力に脚光
順に各施策を紹介していきたい。
まず、「プロダクト・イノベーション賞」を受賞したオイシックス・ラ・大地の「アップサイクル食品開発の取り組み~Upcycle by Oisix~」だ。食品小売業にとって、「商品」はビジネスの核となるものである。最近ではそんな「食」「商品」を通じてサステナビリティを実践する食品小売企業が徐々に増えつつあり発展が期待される。そうしたなか、同社の施策は先進的なものであると受賞に至った。
食品のサブスクリプションサービスを提供するオイシックス・ラ・大地は、日本で発生する食品ロスのうち、半分以上が食品メーカーや小売店など食品関連事業によるものであるという社会課題を目の当たりにしていた。そうしたなか、アパレルを中心に他業種で進みつつあった、捨てられているものに付加価値をつけ新たな製品とする「アップサイクル」に着目。21年7月にフードロス解決ブランド「Upcycle by Oisix」をスタートした。23年9月末時点で開発したオリジナル商品は79品で、計約96トンの食品ロス削減に寄与している。
21年7月に販売を開始したフードロス解決ブランド「Upcycle by Oisix」シリーズ未活用食材に
付加価値とストーリーを
同社施策が高く評価されたのは、定量的な結果が出ていることに加え、同業他社や他業種からも評価される商品開発力である。
「Upcycle by Oisix」には、「なすのヘタチップス」「国産穴あきわかめの玄米スナック」「皮ごとかぼちゃとはじかれるくるみのパウンドケーキ」など、さまざまな未活用食材を活用した商品がある。
同社の応募担当者によると商品開発のポイントとして「使用する食材の部位や加工方法、味付けなどによって未活用食材の持つ特長を価値に変換することを意識している。また誰かにふと話したくなるようなストーリー性を持たせ、また『どんな味?』『その部位って食べられるの?』といった疑問や興味をもってもらうことで、フードロス削減の輪が広がることをめざしている」という。
こうしたオイシックス・ラ・大地の商品開発・プロデュース力が注目され、食品メーカーからの共同開発の依頼が増えている。チョーヤ梅酒(大阪府)とは、梅酒に漬けた後の梅の実を使った「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」を、飲食チェーン展開のプロントコーポレーション(東京都)とは、コーヒーを淹れたあとに残るコーヒー豆かすを活用した「コーヒーから生まれた チョコあられ・黒糖あられ」を共同開発した。
「Upcycle by Oisix」を扱う食品小売店も増えている。ライフコーポレーション(大阪府)が展開する自然派スーパー「ビオラル」や、ローソン(東京都)が展開する健康志向フォーマット「ナチュラルローソン」など、販売店舗数は約270店まで広がっている(23年9月末)。
チョーヤ梅酒との共同開発商品「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」選考委員の間でも、オイシックス・ラ・大地の商品開発・プロデュース力を評価する意見が多くあがった。
渡辺林治氏は「食品小売業と食品メーカーはこれまでもプライベートブランド商品をはじめ商品を共同開発してきた。しかしチョーヤ梅酒のようなメーカー側が食品小売業側の商品開発の技術力を積極的に評価し、付加価値型商品を共同開発する例は珍しく、今後の拡張性も期待できる。オイシックス・ラ・大地の着眼点の良さや、買い手を楽しませ、購買意欲を促す商品開発力を高く評価したい」とコメントしている。
アークスの3つの
アプローチから見える
「誰も取り残さない」姿勢
アークスは「買物難民対策」の施策で、「Leave no one behind(誰も取り残さない)賞」を受賞した。北海道、東北を中心に約380店を展開するアークスは、その商圏エリアの多くで、人口減少や少子高齢化とともに、小売店の閉店も進んでいる。そうした理由で買物が困難になってしまった地域・人々に①「商品を届ける」、②「店舗を届ける」、③「交通手段を届ける」という3つのアプローチで対応を行っている。
具体的に①「商品を届ける」では、13年よりグループ横断で、ネットスーパーなど時代に応じた販売手法を検討するプロジェクトを発足。現在ではラルズ(北海道)とベルジョイス(岩手県)がネットスーパー「アークスオンラインショップ」を展開し、北海道内では9市12町の約170万世帯、岩手県内では盛岡市西部と近隣市町までサービスエリアを広げている。
➁「店舗を届ける」では、道北アークス(北海道)が、売場面積約230㎡~450㎡を中心とした超極小型店舗「Daマルシェ」業態を計8店舗展開している(23年9月末)。
同業態は、道北アークスの総合物流センターとデリカセンターから商品を供給して、店舗での加工作業をなくすことで、小型店でかつ人件費や水道光熱費等の固定費を最小限に抑え、周辺人口3000~4000人など小商圏でも出店を可能にしている。
③「交通手段を届ける」では、宮城県で10店舗を展開する伊藤チェーン(宮城県)が、自社店舗へ送迎する「無料お買い物バス」の運行を行っている。宮城県名取市の「買い物機能強化及び高齢者等の外出機会の拡充に関する事業」の募集に応じるかたちで20年9月から運行を開始したもので、現在は1台のバスで計3店舗を日替わり(各店・月水金と火木土のいずれか)で周回している。
アークスの超極小型店舗「Daマルシェ」業態3つの施策が
いずれも黒字化
アークスが高く評価されたのが、3つの施策とも、数値で結果と施策の広がりが示されていること、またいずれの施策も企業努力を重ね、事業として黒字化している点である。
たとえば「無料お買い物バス」でも、告知や買物クーポンの配布などにより利用促進を図り、利用者が21年で450人、22年で580人、23年で700人と増加。この利用者増と、送迎コースの改廃などの効率化により、人件費や燃料代、整備費等の諸経費をカバーし事業単体で収益が出ているという。アークスは、収益追求が目的の事業ではないとしているが、単なる社会貢献事業にとどまらせず、サステナビリティをビジネスによって実現していくという姿勢が感じられる。
もう1つの評価された点が、賞の名前にもなっている「誰も取り残さない」という姿勢である。この「Leave no one behind(誰も取り残さない)」は、SDGs(持続可能な開発目標)が掲げるビジョンである。アークスは自社のサービス対象者である買物客に対し、買物が困難になっている人も取り残さず、自社の経営資源を活用して買物機会の提供を行っている。
選考委員の篠原欣貴氏は「ビジネスモデルを生かして社会貢献を実践していくことを示す好事例。SDGsのスローガンである『誰も取り残さない』を体現している」とコメントを寄せている。
伊藤チェーンが運行している「無料お買い物バス」 送迎コースの改廃などの効率化により、人件費や燃料代、整備費等の諸経費をカバーし事業単体で収益が出ているというセブン、日立製作所、リコー
サンデン・リテールシステム
東洋エンジニアリングの
5社の連携が受賞
表彰企画第2回の今回は、企業間連携による表彰枠を設けた。応募施策のなかでも高い評価を得て、「企業間連携賞」を受賞したのが、セブン-イレブン、サンデン・リテールシステム、東洋エンジニアリング、日立製作所、リコー(セブン-イレブン以外の企業はあいうえお順)による「先進的な省エネ・創エネ・蓄エネ設備を備えた新たな環境負荷低減店舗の挑戦」だ。
セブン-イレブンは、親会社のセブン&アイ・ホールディングス(東京都)が掲げるCO2排出量削減の目標達成に向けて、複数店舗で環境負荷低減を図るための実証実験を重ねてきた。そして23年2月にその最新店舗「セブン-イレブン三郷彦成2丁目店」(埼玉県三郷市:以下、三郷彦成2丁目店)をオープンした。
セブン-イレブンら5社が評価されたポイントは、5社で連携し、次世代型の環境負荷低減店舗の創造に成功している点である。各社の先端技術を搭載することで、「省エネ」「創エネ」「畜エネ」を追求し(図)、三郷彦成2丁目店では、13 年度比で店舗の購入電力量は約 60%、CO 2排出量は約 70%の削減を見込んでいる。
たとえば「創エネ」では、リコーが複合機開発で培ってきた技術を生かし開発した4種類の次世代太陽電池の効果を検証する。このうち店舗外壁面に設置した「ペロブスカイト太陽電池」は低照度から高照度まで、さまざまな環境でも安定した発電が可能だ。リコーの次世代太陽電池を実際の営業店舗に搭載するのは初めてとなる。
23年2月にオープンした環境負荷低減店舗の最新店「セブン-イレブン三郷彦成2丁目店」(埼玉県三郷市) 図:各社の搭載技術企業間連携を実現する
各社のリーダーシップ
セブン-イレブンの店舗数は全国で約2万1000店を超え、この店舗網はすでに社会インフラにもなりつつある。
三郷彦成2丁目店は実験店舗ではあるが、食品小売業とメーカーで連携し社会にとっても重要な存在であるコンビニ店舗をイノベーションしていく姿勢、また、複数企業と技術連携を図ることで従来よりも大きくサステナビリティを実現する次世代店舗を創り上げている点が支持され、今回の受賞に至った。
加藤孝治氏は「こうした最先端技術を搭載した店舗開発は大手企業だから可能な部分がある。そんな大手企業として、社会インフラを革新していくという気概が感じられる。サステナビリティ活動でスコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)まで企業の社会的責任が求められるようになるなか、今後、企業間連携は必要不可欠となる。そうしたなか、今回の5社のように企業間連携を実現していくリーダーシップがより重要となってくる」と指摘している。
根拠をもって伝える力
施策の企画力が必要に
以上、受賞した3つの施策について解説した。今回の審査で焦点があてられた要素には大きく2つある。
1つは、施策の成果と、広がりが数値でわかりやすく示されていることだ。
選考委員の宮川宏氏は「サステナビリティ施策を公表する際には、その根拠や結果を明確に示す必要がある。今後、企業においては、いかに自社のサステナビリティ施策を、ステークホルダーに対して、根拠や結果にもとづいて、わかりやすく伝えることが重要なポイントとなる」と指摘している。
こうしたサステナビリティ活動のPRについては、各社がさまざまな施策に取り組むようになるなか、自社ならではの活動に発展させていく工夫も必要になるという。選考委員からは、たとえば企業理念とサステナビリティ施策の結びつきをしっかり持たせることなどが打ち手として挙げられた。
また、単に施策に取り組むのではなく、中長期を見据えた施策設計も意識するべきポイントだという。加賀田和弘氏は「とくに意識したいのが施策の『拡張性』だ。企業と顧客、取引先との関係性が広がっていくなど、継続することで効果が発展・派生していくような創意工夫が、企業力を高めるサステナビリティ施策となる」と述べている。
食品小売業という
事業モデルを活かす
もう1つ焦点となったのが、食品小売業だからこその取り組みという点だ。社会全体でサステナビリティの実践が求められるなか、食品小売業以外の業界でもさまざまな先進的な施策が進んでいる。そうしたなか、「サステナブル・リテイリング表彰」では、食品小売業という事業モデルを生かし社会に貢献しているという点に焦点があたった。
最後に、選考委員からは「前年より総じて施策が進化していて、選定が難しかった」という声があがった。本表彰企画で受賞施策を選定するという点では前述の焦点にフォーカスがあたったが、応募いただいた施策はいずれも素晴らしいものであり、こうした企画に参加する姿勢に、本表彰企画関係者一同、敬意を表する。
なお、第2回の今回は、食品小売企業以外にも参加を呼びかけた結果、食品卸の三菱食品(東京都)や、食品メーカーの伊藤園(東京都)からも応募があり、業界を超えて連携しサステナビリティを推進していく意欲の高さを感じた。
また、ローカルスーパーからも複数、アイデア光る施策が寄せられており、選考委員から注目が集まった。本表彰企画では今後も、企業規模の大小問わず、優れた施策に光を当てていく方針だ。
そのほか、第1回で「総合賞」に輝いたアクシアル リテイリング(新潟県)は、昨年とは異なる内容で、かつ1社の最大応募数である3つの施策の提出があり、選考委員からはその姿勢が高く評価されていた。
たとえ受賞企業であっても別の施策であれば受賞の対象であり、またこれまでに応募済みの施策であっても、施策の進捗等を評価する。是非、継続的に参加し、社内のサステナビリティ推進に活用していただきたい。なお、第2回の今回は応募企業全社に、結果とともに委員からのコメントも添えるので、参考になれば幸いだ。
本企画は来年度も継続する方針であり、是非、多くの企業に参加いただけること、また各社の施策の発展に期待したい。