中国では2023年、意外なブランド同士のコラボ商品が次々と打ち出された。ほとんどの商品は目の肥えた消費者から見向きもされず忘れ去られていったが、その中からほんの一握り、消費者の心をつかんで離さないヒット商品も誕生した。以下に5つの成功事例をまとめた。
SK-II×大白兔
卯年の23年の初め、ウサギにちなんだコラボ商品が発売された。日本の高級スキンケアブランド「SK-II」が、中国の国民的ミルクキャンディーブランド「大白兔(White Rabbit)」と業界を超えてコラボした新年限定の化粧水だ。
SK-IIは、手に取った人が「飛躍と向上」を象徴するウサギのように、積極的な気持ちで新たな年に飛び込んでほしいという願いを込め、中国で長く愛されてきた大白兔のデザインをボトルにあしらったという。
ボトルのデザインは、大白兔のキャンディーの包み紙そのものの白色を基調にした配色で、中央には誰もが知る「大白兔の白ウサギ」が座っている。中国語では兎を「トゥー」と発音する。SK-IIは真っ白なマントをかぶった「SK兎」に変身し、ミルキーで可愛いらしい外観が発表されると瞬く間にネット上の話題をさらった。
SK-II×大白兔SK-IIが大々的な宣伝活動をしなかったにもかかわらず、女性を中心に多くのネットユーザーがSNSで情報を拡散したことで、大白兔とコラボした新年限定化粧品への注目度はさらに高まっていった。SK-IIは高級ブランドとして知られるが、今回初めての大胆な試みとして、大白兔という手頃な価格で愛されてきたブランドをコラボ相手に選んだ。結果的にこのコラボは大成功し、SK-IIと中国の消費者の気持ちをより強く結びつけ、老舗ブランドの大白兔と若い世代との距離をぐっと縮めた。
喜茶×FENDI
人気ティードリンクチェーン「喜茶(HEYTEA)」は5月、イタリアの高級ファッションブランド「FENDI(フェンディ)」とコラボし、期間限定の特製ドリンク「FENDI喜悦黄」を発売した。価格は通常のドリンクと同等の19元(約380円)で、1万元(約20万円)を超えるFENDIの商品と比べれば格安だ。
喜茶×FENDIFENDI喜悦黄は大人気を博し、各地の喜茶の店舗で品薄状態となった。SNSでは「人生初のラグジュアリーブランドを手に入れた」「初めてのFENDIを喜茶でゲット」といった喜びの声が次々に投稿され、話題が話題を呼んでいった。
ラグジュアリーブランドFENDIとのコラボは、喜茶の知名度を高めただけでなく、ブランドとしての格を引き上げた。一方、今回のコラボはFENDIが中国市場、とくに若い世代の消費者を重視していることを示している。 ちなみにFENDIは23年、仏モエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)傘下のブランドで最も多くのコラボ商品を打ち出した。
喜茶は23年、FENDIだけでなく、米哈遊(miHoYo)の大ヒットゲーム「原神」や、景徳鎮中国陶磁博物館などと意外性のあるコラボ商品を打ち出し、いずれもブレークさせている。
MANNER COFFEE×ルイ・ヴィトン
新興コーヒーブランド「MANNER COFFEE」が6月、ルイ・ヴィトンとのコラボを打ち出すと、ネット上は「帆布のトートバッグに580元(約1万1600円)の値打ちはある?ない?」という話題で持ちきりになった。
MANNERは期間限定で、上海の中心部にあるコーヒーショップをヴィトンが発行する書籍専門のブックストアに変身させ、書籍を2冊購入した顧客にヴィトンのロゴが入ったトートバッグをプレゼントした。最も安い書籍でも290元(約5800円)だったため、トートバッグを手に入れるためには最低でも580元が必要だった。
MANNER COFFEE×ルイ・ヴィトンヴィトンのロゴ入りバッグがたった580元で手に入るとあって、上海の若者たちは色めき立った。期間限定ブックストアの前には、自分のために並ぶ若者や子どもの代わりに並ぶ親たちだけでなく、代理購入業者や転売業者も加わり、長蛇の列ができた。中古品取引サイトでは当時、このトートバッグが700元(約1万4000円)以上で売買されていた。
ネット上では、消費者の虚栄心につけこんでいるとの声が上がった。「目には見えない文字で『愚かで貧しい見栄っ張り』と大書きされたバッグを持ち歩くようなものだ。なぜそんなことに580元も払うのか」と苦言を呈すメディアも現れた。
しかし一方で、人によってセンスも好みも違い、買うか買わないかは個人の自由だとし、「見栄っ張り」と決めつけるべきではない、と反論する声も上がった。
瑞幸咖啡×貴州茅台酒
23年に注目されたコラボ商品で忘れてならないのが、コーヒーチェーン大手「瑞幸咖啡(luckin coffee)」が白酒(伝統的な蒸留酒)最大手「貴州茅台酒(Kweichow Moutai)」とコラボして打ち出した白酒風味のカフェラテ「酱香拿鉄」だ。
9月4日に発売されると、その独特な味わいで評価は真っ二つに割れた。しかし、好奇心をくすぐる目新しさ、流行に乗っておこうという消費者心理、そして割引されて19元(約380円)という手頃さも加わり、発売初日には542万杯を売り上げた。
瑞幸咖啡×貴州茅台酒今回のコラボで、両社の時価総額は一夜にして急騰した。瑞幸咖啡は30億元(約600億円)、貴州茅台酒は200億元(約4000億円)に跳ね上がり、「瑞幸×茅台のコラボにウォール街がひざまずいた」と語られた。
一方は格安のコーヒーチェーン、もう一方は高価なことで知られる国民的白酒ブランド。異なる業界の大手2社の出会いは、双方に収穫をもたらした。瑞幸咖啡は、不動の地位を確立した老舗ブランドの貴州茅台酒と肩を並べることでブランドイメージを上げ、若者にとっては高級すぎて手を出しにくかった貴州茅台酒は、若者との距離を縮めることに成功した。
瑞幸咖啡は23年、米下着ブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」や名作アニメ「トムとジェリー」など、さまざまなブランドやIP(知的財産)とのコラボでも強い印象を残したが、最も影響力があったのは貴州茅台酒とのコラボだった。
烏江榨菜×ビリビリ動画
榨菜(ザーサイ)をめぐる異色のコラボは、若者の間に空前のブームを巻き起こした。老舗ザーサイブランドの「烏江榨菜」は10月19日、動画配信大手の「Bilibili(ビリビリ動画)」とのコラボ商品を発売。パッケージはビリビリ動画のイメージカラーのピンク色、ビリビリ動画から生まれた人気キャラクター「2233姐妹花」が動画を見ながら食事をする様子がプリントされている。傍らのQRコードをスキャンすればビリビリ動画にアクセスできる。
中国では、動画を見ながら食事をする最近の若者の習慣を「電子榨菜(デジタルザーサイ)」と呼ぶ。今回のコラボ商品は、デジタルザーサイと本物のザーサイ、食事に不可欠な2種類のザーサイを合体させた。
烏江榨菜×ビリビリ動画このコラボ商品が発表されると、オンラインとオフラインの両方で爆発的な反響を呼んだ。発表当日、ビリビリ動画では「デジタルザーサイが本当に食べられるようになった」というキーワードが検索トップとなり、SNSの「微博(Weibo)」には「ドーパミン・ザーサイだ」や「デジタルザーサイと本物のザーサイ、食欲をそそるのはどっち?」といった投稿が多数寄せられた。重慶や上海、広州などの一部の地域では、スーパーマーケットから小さな売店に至るまで、コラボ商品のザーサイが品切れになった。
烏江榨菜は、今回のコラボは若者との距離を縮め、ブランドの若返りを図る取り組みの一環だと説明した。ビリビリ動画は、さまざまな趣味や興味に対応するオリジナルコンテンツがそろっており、若者が食事をしながら動画を見る際に真っ先に選ぶ動画配信サイトとなっているからこそ、このコラボは成功したのだろう。
クロックス×マクドナルド
カジュアルフットウェアのクロックス(Crocs)は11月17日、マクドナルドとのコラボアイテムを発売した。マクドナルドとその人気キャラクターであるグリマス、バーディ ー、ハンバーグラーをイメージした限定サンダル4種類は、いずれもユーモラスなデザインで注目を集めた。ECプラットフォームで発売されると、いくつかのアイテムはわずか3日で売り切れたという。
クロックス×マクドナルド中国の若者の中には、クロックスにもマクドナルドにも「信者」と言っていいほど熱狂的なファンがいる。クロックスのサンダルを履いてマクドナルドで食事をする若者たちの生活スタイルを体現したコラボアイテムと言えよう。
まとめ
さまざまなコラボ商品があふれる現在、どんなブランド同士がコラボしても特に驚きはない。しかし、2023年に大ヒットしたコラボ商品を振り返ると分かることがある。有名ブランド同士がコラボすれば良いわけでも、斬新さで消費者に訴えかけさえすれば良いわけでもない。双方の商品力やブランド力、販売力などのリソースを重ね合わせることができて、はじめて1と1を合わせて3以上の効果が得られるのだろう。
*2023年12月25日のレート(1元=約20円)で計算しています。
原文:億欧新消費(WeChat公式ID:EO-Consumer)
(翻訳・田村広子)